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かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

複雑すぎるというのは不純だったということになるかも知れない。お前は笹尾から種々なことをきいたというから、よく分っているだろう、然し一つの会社を支配してゆくのに非常な困難があるものだよ。……が俺は今でもそう思っている。笹尾に対して俺のやったことは、決して笹尾に悪い影響は与えなかったろう。もし俺が笹尾をまた使っていたら、屹度悪い結果を来すにきまっている。」

「そうかも知れません。ですがお父さんのやられたことは、まあうまくいってよかったですが、大変危険なことだったでしょう。」

「何が危険だ?」

「それは種々な意味でですが……。兎に角お父さんの方にも余り立派な動機は働いていなかったように私には思えますが。」

「立派な動機というのは?」

「お父さんは岩田のことを思い出されますか。お父さんはあの時、あの年とった小使夫婦をあんなにお世話なすったんじゃありませんか。私はあの穢い小使部屋を覗いた時の印象をまだ忘れません……。そして会社の者がお父さんを下から見上げるようにして仰ぎ見た時、新聞にはお父さんを模範社長と書き立てた時、私は涙が出るような気がしました。……然し此度のことは私には全く意外でした。