轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

かとにん

過渡人

豊島 与志雄

「帝國文學 第二十二卷第四號」1916(大正5)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,206 字 · 41 页

青空文庫

少し腫れ眼瞼の眼はじっと閉じている。薄暗い光りの隈が頬の皺に纒っている。多年白粉に塗られてきた皮膚には血の気が失せて蝋細工のような仄白さが顔面の表皮に浮んでいる。

矢島さんがその顔をじっと見た。そして彼の心には安らかに老いていった一人の女の姿が映じた。凡てに無関心な安静が彼女を包んでいた。彼女は四人の子を産んでその三人を育て上げた。なるがままに人生を見て来た。恐らくは何も欲求しなかったであろう、恐らくは何も得なかったかも知れない、そして恐らくはもう人生に用が無くなっているかも知れない、然し彼女のうちには何かが澱んでいた、年月を生きてきた生の重みが、それを宿している女性の肉体が。

矢島さんの心に漠然たる恐怖が湧いてきた。彼は喰い入るように妻の寝顔を凝視した。彼は自分の鳩尾の当りにぐぐぐと気味悪い音がするのをきいたように思えた。

矢島さんは我知らず「おい。」と云った。そしてまた「おい。」と云った。その時常子は眉根をちらと震わして少し身を動かした。矢島さんははっとしていきなり蒲団を被ってしまった。そのまま彼は長い間物に脅えたようにじっとしていた。そして頭の心に遠い痛みを覚えて、そのままの現ともない苦しい眠りに陥るまで……。