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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

彼はダダッ子のように手足をバタバタふりながら、また喚いた。

「放さないでくれ。ああ無情。ああ……」

そしてトラックへ運びこまれたのである。

「ウーム」

寒吉は思わず唸って敗北をさとった。

「ワタクシは何をか云わん」彼がそれからヤケ酒を飲んだのは云うまでもない。

★

翌日、かなりおそく、彼が出勤しようとして通りかかると、今しも三高のトラックが彼をのせ、家族に路上まで送られて出発しようとするところである。奥方とおぼしき婦人は意外に若くて、善良そうな、ちょッと可愛らしい女であった。赤ん坊をオンブしていた。

「トウチャン、シッカリ!」と云って、赤ん坊に手をふらせた。トラックは走り去った。これを見ると、ムラムラと寒吉の心が変った。ミレンが頭をもたげたのである。

「そうだ! 奥方の話をきくのが残されている。ウッカリだ。新聞記者の足は天下クマなく話を追わなければならない」そこで奥方をつかまえて暫時の質問の許しを得た。

「昨日は御主人は酔って御帰館でしたな」

「ええ。ふだんは飲まない人ですのに」

「ハハア。ふだんは飲まないのですか」

「選挙の前ごろから時々飲むようになったんですよ。