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せんきょさつじんじけん

選挙殺人事件

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,782 字 · 28 页

青空文庫

ときいたが、チラと陰鬱な眼をそらしただけで、これにも返事をしなかった。彼の本心をのぞかせたような陰鬱な目。

「これが本音だ!」

寒吉はその日を自分の胸にたたんだ。その他の言葉は、みんな芝居だ。ワタクシという無理でキュウクツな言葉のように。

「要するに、裏に何かがある」それを掴んでみせるぞと寒吉は決意をかためた。

★

次の休みの日、寒吉は早朝から待ちかまえて、三高吉太郎のトラックをつけた。どこで何をするか逐一見届けるつもりで、部長を拝み倒して社の自動車を一台貸してもらったのである。どこで何をするか。誰に会うか。何が起るか。彼は部長に笑われてきたのだ。

「裏に何かがあるッて、何がある積りだい?」

「たとえば、あるいは密輸。あるいは国際スパイ……」

「なア、カンスケ君。選挙は特に人目をひくものだ。それに監視がある。選挙違反という監視だ。その監視の目は選挙違反だけしか見えないわけじゃないぜ。わざわざ監視のきびしい選挙を利用する犯罪者がいると思うか。しかし、まア、貴公が大志をかためた以上は、これも勉強だ。やってみろ」

お情けに車をかしてくれた。何かが起ってくれないと同僚に合わせる顔がない。