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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

とても大切なことなんだ。だから、我々は――」

「ウン、もう、わかった」

一人がいそいでうなずいて、頭をガリガリかきだした。彼は頭で物を考え出すよりもフケをかきだす方がいゝと考えているような様子であった。

彼らは、まもなく、二人パンパンをつれて引返してきた。パンパンは二人とも十八ぐらいの年ごろらしかった。病人の枕元へ坐ると、大学生の一人が小さな声で、然し、きびしく注意を与えた。

「いいかい。病人にさからっちゃ、ダメだぜ、もう、死ぬんだからな。思いを、とげさせてやるんだよ。大切なことだからな」

そして、先生の枕元へ首をさしのばして、

「先生、々々」

とよんだが、先生は目をつぶったまゝ、クルクル目の皮をうごかして、うるさそうなソブリを示したばかりであった。

「先生、々々」

ひときわ高く呼びかけると先生はうるさがってフトンをかぶったが、

「フン、バカにするな。オレが何もできないと思うか」

いらだゝしく呟いたが、すると彼の想念が逆上的に混乱しはじめた様子であった。

「オレの手がふるえたと思うか」

その次には、にわかに殺気だっていた。

「ウソダ! ダマレ! なぐれ! なぐれ! パンパンをなぐれ! なぐり殺せ!」