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さけぬさんざ

避けぬ三左

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,846 字 · 22 页

青空文庫

それでも彼は決して飽きたという顔をしないのだ。いかにも恍惚したような眼つきで空を見あげながら、さも気持のよさそうな声で呟く、――ああ、いい天気だな。それで「天気の三左」というもうひとつの綽名ができているのだ。

三左衛門はまだ戦場でこれという手柄をたてていない。もっとも五年まえ、信濃の真田攻めの折に、ちょっと合戦に加わっただけであるが、その戦いぶりは鈍重で、将来もたいした期待はかけられぬという評判である。しかし、主君榊原康政はそう見てはいないらしい。――あいつの中にはなにかありそうだ、なにかやりそうに思える。しばしば側近の者にそうもらしていた。どちらの鑑識が当っているか、当の三左衛門はのんびりと天気をよろこび、悠々閑々と日を送っていた。

ところがこの十日余り、彼のようすが急に変ったのである。「いい天気だ」と云わなくなった。

動作はあいかわらず鈍重だけれども、顔つきがどこか沈んで、云ってみればなにか重い荷物でも背負った人のようにみえる、――三左がどうかしたらしい。からだでも悪いのではないか。まさか恋患いでもあるまいが。そんな噂がたちはじめたので今日しも、口の軽い若侍が「いい天気だな」