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さけぬさんざ
避けぬ三左
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,846 字 · 22 页
一
一
「おい、むこうから来るのは三左だろう」「そうだ三左だ」「天気を訊いてみるから見ていろ」天正十七年十二月のある日、駿河国府中の城下街で、小具足をつけた三人の若者がひそひそささやいていた。
そこへ大手筋の方から、ひとりの大きな男がやって来た。眉のふとい、口の大きな、おそろしく顎骨の張ったいかつい顔である、眼だけは不釣り合いに小さく、おまけに処女のような柔和なひかりを帯びている。肩は岩をたたんだようだし、手足のふしぶしは瘤のような筋肉がもりあがっている。葛布の着物におなじ短袴をつけているが、袖は肱にとどかず、裾はようやく膝をかくすにすぎないから、このたくましい肉体はまるでむきだし同然だった。……こういうなりかたちといい、腰に帯びた四尺にあまる大剣といい、およそひと眼を惹く存在であるのに、彼はそのうえ痩せこけたちっぽけな犬を一匹つれていた。大げさに云えば掌へ載りそうである。毛色の黒い鼻面の尖った、いかにも臆病そうに絶えずきょときょとして、ちょっと大きな音でもすると、ひとたまりもなく悲鳴をあげて跳びあがる、つまり頑厳たる主人とはまったく相反したやつで、なんとも奇妙なとりあわせであった。