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さけぬさんざ
避けぬ三左
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,846 字 · 22 页
二
「ごぶれいを仕った」三左と呼ばれる男はやおら向き直り、しずかに小腰をかがめながら会釈した。「ごめん」そして再び、悠々たる足どりで、のっしのっしと武家屋敷の方へあゆみ去った。
すなわちこれ国吉三左衛門常信である。徳川家一方の旗がしら榊原式部大輔康政の家来で、「避けぬ三左」とも「天気の三左」とも呼ばれる名物男だった。相貌からだつきこそ頑厳としているが、その眼の色が柔和であるように、性質はおっとりとして温和しく、たちいふるまいもどちらかというと鈍重である、「避けぬ」というのはその重いところから来ているが、事実においても証明する点が多かった。
二
彼は飛んで来る矢弾丸を避けない、道のうえで人を避けない、雨も雪も避けない(というのは雨具を用いないことだ)、酒も菓子も避けない、およそありとある場合に、こちらからそれは御免を蒙るというためしがないのだ。それも意地やがまんではなくて、生得しぜんの気性がそうなのである。一例をあげると、彼は朝の起出でにはかならず、――ああ、いい天気だな、と呟く。晴天の日ばかりではない、雪が降り風の荒れる日もある。霖雨の半月もびしょびしょと降りやまぬときもある。