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さけぬさんざ

避けぬ三左

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,846 字 · 22 页

青空文庫

「じつは、妻を娶りたいと思いまして」

三左衛門はずばりと云った。弥左衛門はううんと唸った、なにを隠そう驚いたのである、当時の常識として、武士たる者がおのれの口からおのれの縁談などを云々すべきではない。それは不躾けな、不心得な、恥ずべきことだとしてあった。

「それは、その、また、けれども」弥左衛門はごくっと唾をのんだ、「どうしてさようなことをその」

「そうせねばならぬ仕儀になりましたから」

「そういう仕儀とは、どんな仕儀だ」

「申しあげなければなりませんか」彼はまったく生まじめである。

「無理に申せとは云わぬが、こと縁談とあるからは聞いておきたいものだ」

三左衛門は、うなだれて自分の膝を見た、それからすぐに眼をあげ、ぐっと拳をにぎりながら云いだした。

「それでは申上げますが、このたび上方と小田原おてぎれに及び、大納言さま(家康)にはご先鋒をあそばすとうけたまわります」

「これ待て、待て三左」弥左衛門はおどろいて制止した。

太閤秀吉が北条氏討伐を決したのは、その年霜月のことで、軍議のため家康は上洛し、先鋒の役をひきうけて十日ほどまえに駿府へかえって来た。しかし、これらのことはむろんまだ極秘であって、いわゆる酒井、榊原、井伊、本多という主だった親近の部将たちしか知っていないことである。