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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
「ああ、なんということだ」
と叫びながら自分の部屋へ走りこみ、頭を抱えて寝棚に倒れた。
船頭の長右衛門が病いついたおかげで、思いもかけぬ仮船頭をうけたまわることになったが、わずか五日ほどで舵を折ってしまった。それから七百余日、話にも聞いたことのないような難船をつづけ、それで死にでもするどころか、最後まで生残り、辛苦のありたけを※(「舌+低のつくり」、第3水準1-90-58)めつくした末、頼母しいかぎりの大船に救われ、やれやれと思う間もなく、頼みに思うその大船がまたぞろ舵を折って流れだすという。前世でどんな悪業を積み、こうまでの咎を受けるのかと、やるせない思いに沈んでいると、半兵衛と音七が這いあがってきて、上のほうでえらい騒ぎをしているが、なにか変ったことでも起きたのではないかとたずねた。
この二人は、揃いも揃って、もっての外の臆病もので、そのうえ年月の難儀が骨身に沁みているところだから、舵を折ったなどというと、どんな騒ぎを起すか知れぬと思い、
「これほどの大時化になれば、舟子は寝転がってもいられまい。大騒ぎはあたりまえのことだ」
と笑い流しにかかったが、寝た間も、命ばかり案じている二人のことだから、そんなことで欺されはしない。