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じゅうびょうしつにっし

重病室日誌

北条 民雄

「文學界」1937(昭和12)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页

青空文庫

当直のハンベイさんがどうしたどうしたとどなつたので、みんなびつくりしてその苦しむさまを眺める。ノドキリ氏は盲目で、鼻は穴が空いてゐるだけだし、頭は髪が抜けてしまつててらてらと光つた坊主である。その坊主頭を苦しげにうち振つたり、ひくひくと咽喉を鳴らせてもがいたりする状は一見ひどく滑稽で、みんなは思はずどつと笑ふといふ始末だ。すぐその隣りにゐる男の如きは、わざわざ起き上つてノドキリ氏の苦しむ真似を始めて大笑ひをするのである。

ひとしきり室内がざわついて静まつた時、向う寝室にゐる女が、随分苦しいことだらうねえ、と憐れな声を出した。すると急にみんなは沈黙に落ち込み、じつとノドキリ氏を見まもり始めた。今まで滑稽に見えたのが今度は恐しい苦痛の表情と見え出したのである。

「おい、先生呼んで来いよ。」

と、さつきまで真似をして笑つたりからかつたりしてゐた男が心配さうに言つた。

「呼んで来ようかなあ。」

とハンベイさんも気になつて歩き出したが、そのとたんに、ノドキリ氏の咽喉でぷつといふやうな音がして、噴出するばかりの勢ひでひゆッと音を立てて息が通ひ出した。すると氏はすつかりうれしくなつたとみえて、ひゆッひゆッとせはしく息を吐いたり吸つたりしながら、両手を叩いて踊るやうな恰好を始めた。