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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

それで片山は東京で方々就職口を内々尋ねて……働くことによってしか生活はよくならない、佐伯君にとっては仕事を見出すことが第一だ、と片山は云ってるのです。私もそう思っています。で、東京にいい口がないので、少し遠いけれど、九州の時枝さんに頼んで上げたのではありませんか。それをあなたは、考えるに事を欠いて、追っ払うなんて!……。」

昌作は黙って頭を垂れていた。達子の叱責が落ちかかってくるに随って、眼の中が熱くなってきた。達子の言葉が途切れてから、暫くその続きを待った後で、少し声を震わせながら云った。

「私が悪かったんです。私は心からあなた方二人に感謝しています。けれどもただ、片山さんが何もかも、心の底まで、すっかりのことを云って下さらないような気がしたんです。それは私の僻みだったんでしょう。……もう何にも申しません。行きましょう、九州の炭坑へ。そしてうんと働いてみます。全く私には、仕事を見出すことが第一の……。」

その時、殆んど突然に、いつも遠くを見つめてるような橋本沢子の眼が、彼の頭にぽかりと浮んだ。瞬間に彼は、或る大きなものに抱きすくめられたようにも、または行手を塞がれたようにも感じた。