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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

これで、すべてがおわったのでは、自分たちの老いた心に、あまりにも残酷すぎる。こんなはずはないのだ――ふたりは、そう信じきっているようだった。今に、何かきっと、いいことが起る。なにもかも、とど笑いばなしになるような、素晴らしい突発事が、近く待っていなければならない。

そして、庄公は帰宅ってくる。必ず、にこにこ笑って、かえってくる!

と、固く、思いこんでいるようすなのだ。

が、日を経るにつれて、この、考えてみると根拠のない期待は、薄らぐ一方だった。万一の儚ない希望が、しんしんと心を刻む痛さ、寒さに、置き代えられて来た。

おこうも惣平次も、言葉を交さなかった。口をきかなかった。何も、いうことを有たないのだった。日が、長かった。夜は、もっと長かった。

やがて、初七日の今夜だった。

通夜をするような心持ちで、壁を背に、じっと坐している藤吉に、細い、低い、押し潰れた声が、聞えて来た。

また、おこうが、涕り泣いているのだった。

「寒い。二階へ上って、寝ろよ。」

惣平次が、言った。

「つめたい石の下で、庄坊こそ、どんなに寒いことか――。」

おこうは、こう言って、泣き声を新たにした。