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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

」と、案に相違して玄内は相好を崩していた。

「苦しゅうない。穢いところで恐れ入るが、通れ。ささ、ずうっと通れ。」

「へへっ。」

伝二郎は手拭いを取り出して足袋の埃を払おうとした。

「見らるるとおりの男世帯じゃ。そのままで苦しゅうない。さ。これへ。」

と玄内は高笑いを洩らした。それに救われたように、伝二郎は小笠原流の中腰でつつっと台所の敷居ぎわまで、歩み寄って行った。

「そこではお話も致しかねる。無用の遠慮は、身共は嫌いじゃ。」

「へへっ。」

座敷へ直るや否や伝二郎はぺたんと坐ってしまった。後へ続いて板の間に畏りながらも、理由を知らない丁稚は、芝居をしているようで今にも吹き出しそうだった。

玄内は上機嫌だった。一服立ておったところでござる。こう言って彼は風呂の前に端然として控えていたが、伝二郎にも、それから丁稚にさえ自身湯を汲んで薄茶を奨めてくれた。伝二郎がおずおず横ちょに押して出した菓子箱は、その場で主人の手によって心持ちよく封を切られて、すぐさまあべこべに饗応の材料に供せられた。浪人らしいその豁達さが伝二郎には嬉しかった。いつともなく心置きなく小半刻あまりも茶菓の間に主客の会談が弾んだのだった。