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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

そして一体その将校は実戦の経験がありましたか」

「いいえ、内地勤務ばかりです」

「そうでしょう。そのはずです。実戦を知らぬ将校が自己の名誉心を満足さすために、何も知らない部下を叱咤して戦場に駆り立てる傾向がありはしないでしょうか。実戦というものは残酷なものですよ。戦争文学を寝ころんで読んでおれば美しく、勇しくて、俺も一つ出てみようかという気になりますがね。実際は違います。たまたま真実を写生したものは、検閲にかかって発表を止められてきたのです。義経の戦には絵があります。乃木大将には詩があります。しかし原子爆弾のどこに美がありましたろう。あの日あの時、この地にひろげられた地獄の姿というものを、君たちが一目でも見なさったなら、きっと戦争をもう一度やるなどという馬鹿馬鹿しい気を起こさぬにちがいない。これから戦争が起こることがあると仮定すると、至る所に原子爆弾が破裂するでしょう。そうして無数の人間がなんの変哲もなく、ただピカドンと潰されてしまうのです。美談もなく、詩歌もなく、絵にもならず、音楽にもならず、文学にもならず、研究にもならず、ただローラーで蟻の行列を圧し潰すように、そこら一帯地均しされるだけのことです。