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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
然るに浦上が屠られた瞬間初めて神はこれを受け納め給い、人類の詫びをきき、忽ち天皇陛下に天啓を垂れ、終戦の聖断を下させ給うたのであります。
信仰の自由なき日本に於て迫害の下四百年殉教の血にまみれつつ信仰を守り通し、戦争中も永遠の平和に対する祈りを朝夕絶やさなかったわが浦上教会こそ、神の祭壇に献げらるべき唯一の潔き羔ではなかったでしょうか。この羔の犠牲によって、今後更に戦禍を蒙る筈であった幾千万の人々が救われたのであります。
戦乱の闇まさに終わり、平和の光さし出づる八月九日、此の天主堂の大前に焔をあげたる、嗚呼大いなる燔祭よ! 悲しみの極みのうちにも私たちはそれをあな美し、あな潔し、あな尊しと仰ぎみたのでございます。汚れなき煙と燃えて天国に昇りゆき給いし主任司祭をはじめ八千の霊魂! 誰を想い出しても善い人ばかり。
敗戦を知らず世を去り給いし人の幸よ。潔き羔として神の御胸にやすらう霊魂の幸よ。それにくらべて生残った私たちのみじめさ。日本は負けました。浦上はまったくの廃墟です。みゆる限りは灰と瓦。家なく衣なく食なく、畑は荒れ人は尠なし。ぼんやり焼跡に立って空を眺めている二人或いは三人の群。