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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

原子を専攻していた理学博士の清木先生もこの瞬間に、これは原子爆弾だ、とは気がつかなかった。まさか米国の科学陣が今日ここまで成功していようとは想像していなかったのである。

学生は? 清木先生は足もとへ眼を転じ、いきなり氷水をぶっかけられたかのように、全身が凍るのを感じた。この物体のようにころがされているのが私の学生なのか? いや、私はさっき壕の中で背中をやられたっきり、まだ意識を回復していないのだ。悪夢だ、悪夢だ。こんな悲惨な事実が、たとい戦争とはいえあり得るはずがない。先生は腿をつねってみた。自分の脈を握ってみた。どうしても自分の肉体は目醒めているらしかった。これが悪夢でないとしたら一体何だろう。悪夢以上に悪い夢にちがいない。

先生はまず足もとの黒変した肉体に飛びついた。「おい、おい」返事がない。両肩に両手をかけて引き起こそうとしたら、皮がぺろりと水蜜桃のようにはげた。岡本君は死んでいた。その隣のが「うーん」と呻いて反転した。「村山君、村山君、しっかりしろ」先生はべろべろに皮のはげた学生を膝に抱いた。「先生、ああ、先生」そういったきり村山君ががくっとなった。