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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

あと二分したら、僕も燃えだす。藤本君は運命を知った。合掌してじっとしていると、父の顔が見えた。「じたばたするな」といった。母の笑顔が見えた。弟の正夫が浮かんだ。正夫が僕の代わりに医者になってくれるだろう。レントゲン室の仲間が一人一人思い出された。角帽をかむる日まで、レントゲン技術員として勉強していた教室、ああ、一緒に入学試験を受け、同じく角帽の栄冠を得た親友蛸ちゃんはどうなったろう。レントゲン仲間で朝夕投げ合っていた短い言葉が次々頭に浮かんだ。「あわてるな」この狭いがらくたの空間に一切の自由を奪われ、無抵抗裡に燃やされ、炭化され、灰になろうとして、何をあわてる必要があろう。「縹渺」ここにおいて肉体は寸尺の活動の余地を有しないが、精神は天地宇宙の間にひょうびょうと流れゆくのだ。あと一分の不自由だ。肉の焼ける匂いがする。若い肉体の燃焼する快い匂いだ。僕の匂いもよいだろう。「一大事とは唯今のことなり」まさに然り。「此亦放尿喫飯脱糞之徒耳」藤本君は思わずくすりと笑った。「どうしても問題が解けぬときは、まるで反対を考えてみるんだ」試験勉強の最中に施先生がよく教えた言葉。