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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
大阪弁が壕のなかから聞こえる。「つまらへんな。こんなこっちゃ、なんぼう頑張ってもあかんで」
誰も返事をしない。この大阪の考えていることにうすうす気づいていないでもないのだが、しかし祖国日本は今生死の関頭に立っているのではないか。戦争は勝つために始めたにちがいない。まさか負けるつもりで、政府がこんな悲劇の幕を開けたのではなかろう。しかし、サイパン失陥いらい大本営発表の用語に、なにか臭い陰影を帯びていることが、敏感な学生にいつとはなく、ある不安を起こさせていたのは事実である。
「おい、級長、どう思う。この戦争はどうなる」大阪弁の男が壕のせまい口から赤い顔をだした。ロイド眼鏡をかけている。なるほどこれは蛸壷だ。
級長藤本はさっきから青桐の下に腕組みをしたまま突っ立って、じいっと空をにらみつづけていた。小柄ながら肝のすわった男で、鉄兜から黒巻脚絆のきりりとしまった脚の先まで隙もない厳重な身固め、これまで何回となく血の中から負傷者を担ぎだした体験は、よく級友の輿望をあつめて、この小男が先頭きって飛びこむ煙の中へ、級友は一つの玉になって突っ込んだものだった。おやじの望遠鏡を持ちだして腰につけている。