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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

大粒の雨がぼたぼた降りだした。指頭大の黒い雨で、くっついた所は重油か何かのように色がついた。これは上の魔雲から落ちてくるようだった。情景はいよいよ凄惨を極める。空気中の酸素が燃焼に費やされたのと、酸化炭素の発生がいちじるしいのとで、この火炎の谷の中では呼吸が重苦しい。誰も犬みたいにはあはあ息づいて働いている。その次に時計を見たら四時だった。患者はすっかり安全な丘の畑に並べて寝せた。どこか屋根のある所をと、学生の斥候は四方に走ったが、どこも火ばかり、ここよりほかに適当な個所はなかった。

私たちはそこに座って飯を食った。胸がいっぱいでという看護婦たちにも、これから何日何か月、こんなことが続くかわからんぞといって、とにかく皆がかねての非常食を食べた。腹ができると自然に落ち着いてきた。それから一人一人患者の訴えを聞いて、丁寧な手当てをやり始めた。止血帯を締めなおす。傷の縫い合わせをする、三角巾を巻きなおす、沃丁を塗る、水をのませる、布団や筵を見つけてきてかぶせる、副木を当てる。

「ああ標本室が火を吐く」長井君が叫ぶ。ああ、十数年苦心して集めた学術標本、再び手に入れられぬ貴重な症例写真が今一陣の煙と化しつつある。