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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
それにもまして地本さんが肝をつぶしたことには、その白煙の下の浦上の丘を山原をこちらへ向けて猛烈な勢いで寄せてくる一つの浪があるのだ。丘の上の家といわず、ありとあらゆるものを将棋倒しに押し倒し、粉砕し、吹き飛ばしつつ、あ、あ、あっという間に、はや目の前の小山の上の林をなぎ倒し、この川平岳の山腹を駆け上がってくる。これはなんだ。まるで目にみえぬ大きなローラーが地ならしをしてころがって来るとしか思われない。今度こそは潰されると地本さんは両手を合わせ、神様神様と祈りながら、またも地面に顔を押しつけた。ががが――とすさまじい響きに耳が鳴ったのと、ひれ伏したままの恰好でふわりと吹き飛ばされたのとが同時だった。五メートルばかり離れた畑の石垣にいやというほど叩きつけられ、地本さんは目をあけて見回した。あたりの立木がみんな目通りの高さからぽきぽき折り倒され、木といわず草といわず、葉はみんなどこへ消えたのやら――さむざむと松脂が匂うばかり。
古江さんは道ノ尾から浦上へ帰る途であった。ちょうど兵器工場の前を自転車で走っているとき、妙な爆音を聞いたような気がした。ひょいと頭をあげたら、松山町の上あたり、大体稲佐山の高さぐらいの青空に、一点の赤い火の玉を見た。