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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

あんな高い山の上の一軒家へと足を思わずためらうが、しかしあの家に貴重な症例がもしあるとしたら見逃すことが許されるものかと、杖持つ手に力をこめて一歩一歩登って行く。行けば喜ぶ家族の騒ぎ。怪我人は、ああ、お医者が診てくださるからきっと助かる、と自分で不自由な手を動かして繃帯をとき始める。台所では早速とんとんとんと胡瓜を刻む音がする。手当てが済んだらお茶のご馳走が出るだろう。

大事な学問のために、患者を助けるために、家族の喜ぶさまがうれしさに、地区から地区へ巡礼のように歩いたが、さすがに夕陽のあかく差すころには、空腹と疲労と疼痛とで皆はすっかりへたばってしまった。二人ずつ手をつないで、もう口をきく者もなく黄昏の山路を帰る。ぶうっと、いきなり長老が一発発射した。婦長さんが「おほほほほ」と笑って走りだした。「まぁひどいわ」と豆ちゃんがいう。「かまわん、かまわん。ロケット推進器たい」と長老がこともなげに片づけ、「この勢いで前進するんだ」と、また発射した。今度はあまり音がよくない。「過酸化水素が不純だな」長井君がひやかした。「製造機はまだ大丈夫なんだが、原料不足だから」