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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

とたしなめられ、やっとのことで往診だけ済ませ、夜遅く家にたどり着くなりどっと床に臥して、それからは石を谷間に蹴落とすように病勢が進んだのだった。苦しい昏睡からふと正気に返ってみると呼吸がおかしい。われとわが呼吸を聞いてみると、シェーンストーク型ではないか。臨終数時間前から始まる特別な呼吸。私は「シェーンストークねえ」といった。枕元に座っていたのは富田先生だった。もと教室で研究中応召されたのだったが、いつのまにか来てくださっていた。先生は困った顔をして「はあ」といわれた。「遠いところを先生、すみません」と私は手をのばした。森田婦長さんの顔が見えた。「先生、大丈夫ですから、じっとしていらっしゃいよ」と、婦長さんが力強くいって腕に注射をしてくれた。この痛さから考えるとコラミンらしい。それならば脈も弱いのだろう。胸の中で空車が回るような心細い苦悶がある。しかし婦長さんが大丈夫といってくれたから大丈夫だろう。首も動かせず、眼もあきかねるが、なんだか大勢の人が集まって、ひそひそ話をしたり、ざわざわ立ち騒いでいるような気配がする。「施先生は?」私はなにか気が弱くなって尋ねた。