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とうそう
闘争
小酒井 不木
「新青年」1929(昭和4)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页
この説に対して毛利先生は、精神異常は脳質に変化が起ってはじめてあらわれるのであって、脳質に変化の起らない限り、即ち、精神病的徴候のあらわれない限り、暗示によって殺人を行わせるごときは絶対に出来ぬと主張されたのである。先般の学会でもこの点について激論があった。実をいうとその時毛利先生の旗色が幾分か悪かった。すると、狩尾博士は、
「毛利君如何です?」と、いかにも皮肉な口調で、幾度も先生に迫ったものだ。けれども、人間に直接実験して見せて貰わないうちは、先生も兜をぬぐことが出来ない。で、結局はやはり、そのまゝになって討論はやんだが、その時の狩尾博士の演説が、雑誌に載って居たので、毛利先生は、鑑定の方よりも、それに余計に気をとられて居られたわけである。
K君。
このようにして、北沢事件の再鑑定は僕が引受けることゝなった。僕等の教室では、たとい鑑定の事項が局所的のものでも、必ず全身を精密に解剖することになって居るので、その日直ちに注意深く解剖を行った。その結果、北沢栄二という人は胸腺淋巴体質であることを知った。即ち自殺者に殆んど常に見られる体質だ。それから頭部の銃創と骨折の関係をしらべ、胃腸の内容をしらべたが、その結果、ピストルは右の顳から約五センチメートルほど離れたところから発射され、死の時間は昼食後一時間乃至二