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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
春泥はどこかにいる。そして、事件の底から蛇の様な目を光らせていたに相違ない。私は理窟ではなく、そんな風に感じないではいられなかった。だが、彼はどこにいるのだ。
私はそれを下宿の部屋で、蒲団の上に横になって考えていたのだが、流石肺臓の強い私も、この果しのない妄想にはうんざりした。考えながら、私は疲れ果ててウトウトと睡ってしまった。そして、妙な夢を見てハッと目が醒めた時、ある不思議なことを思い浮べたのだ。
夜が更けていたけれど、私は彼の下宿に電話をかけて、本田を呼び出して貰った。
「君、大江春泥の細君は丸顔だったと云ったねえ」
私は本田が電話口に出ると、何の前置きもなく、こんなことを尋ねて、彼を驚かした。
「エエ、そうでしたよ」
本田は暫くして、私だと分ったのか、眠む相な声で答えた。
「いつも洋髪に結っていたのだね」
「エエ、そうでしたよ」
「近眼鏡をかけていたのだね」
「エエ、そうですよ」
「金歯を入れていたのだね」
「エエ、そうですよ」
「歯が悪かったのだね。そして、よく頬に歯痛止めの貼り薬をしていたと云うじゃないか」
「よく知ってますね、春泥の細君に逢ったのですか」