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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
一月ばかりの間は、そんな風に信じ切っていた。
だが、やがて、私の妄想の熱度が、徐々に冷えて行くに随って、恐ろしい疑惑が頭を擡げて来た。私は一言さえも、静子の直接の懺悔を聞いた訳ではなかった。様々の証拠が揃っていたとは云え、その証拠の解釈は凡て私の空想であった。二に二を加えて四になるという様な、厳正不動のものではあり得なかった。現に、私は運転手の言葉と、灰汁洗い屋の証言丈けを以て、あの一度組み立てたまことしやかな推理を、様々の証拠を、まるで正反対に解釈することが出来たではないか。それと同じ事が、もう一つの推理にも起らないとどうして断言出来よう。事実、私はあの土蔵の二階で静子をせめた際にも、最初は何もああまでする積りではなかった。静かに訳を話して、彼女の弁明を聞く積りだった。それが、話の半ばから、彼女の態度が変に私の邪推を誘ったので、ついあんなに手ひどく、断定的に物を云ってしまったのだ。そして、最後に度々念を押しても、彼女が押し黙って答えなかったので、てっきり彼女の罪を肯定したものと独り合点をしてしまったのだった。だがそれはあくまでも独り合点ではなかったであろうか。