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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
その平田一郎のことを、つい隠してしまったのでございます」
静子は、恥しさと悲しさの為に、あのまつげの長い目をふせて、そこに一杯涙さえためて、小さな声で細々と語るのであった。
「小山田は平田一郎の名をどこかで聞いていて、いくらか疑っていた様でございましたが、わたくし、あくまで小山田の外には男を知らないと云い張って、平田との関係を秘し隠しに隠してしまったのでございます。そして、その嘘を今でも続けているのでございます。小山田が疑えば疑う丈け、私は余計に隠さなければならなかったのでございます。人の不幸って、どんな所に隠れているものか、本当に恐ろしいと思いますわ。七年前の嘘が、それも決して悪意でついた嘘ではありませんでしたのに、こんなにも恐ろしい姿で、今わたくしを苦しめる種になりましょうとは。わたくし、平田のことなんか、本当に忘れきってしまっていたのでございます。突然平田からあんな手紙が来ました時にも、平田一郎という差出人の名前を見ましても、暫らくは誰であったか思い出せない程、わたくし、すっかり忘れきっていたのでございます」
静子はそう云って、その平田から来たという数通の手紙を見せた。