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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

その時、六郎氏は禿頭を隠すのだと云っていた由であるが、それにしては、誰も、彼の妻であった静子さえも、六郎氏が生前鬘を冠っていたのを見なかったのは、一体どうした訳であろう。私はいくら考えても、この不可思議な謎を解くことが出来なかった。

一方静子(今は未亡人であったが)と私との間柄は、六郎氏変死事件を境にして、俄かに親密の度を加えて行った。行掛り上私は静子の相談相手であり、保護者の立場にあった。六郎氏側の親戚の人達は、私の屋根裏調査以来の心尽しを知ると、無気に私を排斥することは出来なかったし、糸崎検事などは、そういうことになれば丁度幸だから、ちょいちょい小山田家を見舞って、未亡人の身辺に気をつけて上げて下さいと、口添えをした程であったから、私は公然と彼女の家に出入することが出来たのである。

静子は初対面の時から、私の小説の愛読者として、私に少なからぬ好意を持っていたことは、先に記した通りであるが、その上に二人の間に、こういう複雑な関係が生じて来たのだから、彼女が私を二なきものに頼って来たのは、誠に当然のことであった。そうしてしょっちゅう逢っていると、殊に彼女が未亡人という境遇になって見ると、今迄は何かしら遠い所にあるものの様に思われていた、彼女のあの青白い情熱や、なよなよと消えてしまい相な、それでいて不思議