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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

書斎程、その主人公の性格なり秘密なりを如実に語って呉れるものはないのですから。私は夫人が怪しまれるのも構わず、殆ど半日がかりで、書棚という書棚、抽斗という抽斗を調べ廻ったことですが、間もなく私は、数ある本棚の中に、たった一つ丈け、さも厳重に鍵のかかっている箇所のあるのを発見しました。鍵を尋ねますと、それは六郎氏が生前時計の鎖につけて、始終持歩いていたこと、変死の日にも兵児帯に巻きつけて家を出たままだということが分りました。仕方がないので、私は夫人を説いて、やっとその本棚の戸を破壊する許しを得ました。

開けて見ますと、その中には、六郎氏の数年間の日記帳、幾つかの袋に入った書類、手紙の束、書籍などが一杯入っていましたが、私はそれを一々丹念に調べた結果、この事件に関係ある三冊の書冊を発見したのであります。第一は六郎氏と静子夫人との結婚の年の日記帳で、婚礼の三日前の日記の欄外に、赤インキで、次の様な注意すべき文句が記入してあったのです。

「(前略)余は平田一郎なる青年と静子との関係を知れり。されど、静子は中途その青年を嫌い始め、彼が如何なる手段を講ずるも其意に応ぜず、遂には、父の破産を好機として彼の前より姿を隠せる由なり。