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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

」

夏樹である。兵六さんはいそいでそれまでの表情をあらためて夏樹をむかえた。

「どうしたの兵六さん、顔?」

しんけんな案じ顔に、兵六さんの気もちはへたへたとなった。

兵六さんのわざとのろついた足どりにあわせて、夏樹はその右がわによりそって帰ってきた。ガガーと、客をしらせるベルを鳴らしておいて、出てきた音枝に興奮した声でいう。

「兵六さん、怪我したんだよ。年よりにけがさしといて逃げたんだってさ。ひきょうだね。」

「どうしたんですか。」

と、音枝もまゆをよせ、

「いつ、どこでですの。」

「おととい――の前の晩かな。」

「あら、おとといはうちへきましたよ。」

「あ、そうか、その晩だ。その帰りだ。」

「いやだわおじさん。気をつけてくださいよ。足もですか。」

「いやあ、なに。怪我の方はわしががまんすりゃあすむがね。すまない、厄介なことができてね、まったく。」

兵六さんはるるとしてその自転車衝突事件をのべたのち、

「なにしろいたいのは足じゃなくて、自転車の弁償ですよ。自転車のね。そいつが人の借りものなんでさあ、人のね。貧すりゃ鈍するっていうが、あんたがぼやぼやしとるっておせいにゃしかられる、借りた大家さんは渋い顔する、一そのこと自動車にでもはねられて即死した方がよかったかしらんと……」