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おしゃく
雛妓
岡本 かの子
「日本評論」1939(昭和14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页
そしてその蝕まれるものの、また何と美しいものに縁があることよ。
逸作はいみじくも指摘した「おまえの家の家霊はおしゃれで美しいもの好きだ」と。そしてまた言った。「その美なるものは、苦悩を突き詰めることによってのみその本体は掴み得られるのだ」と。ああ、わたくしは果してそれに堪え得る女であろうか。
ここに一つ、おかのさんと呼ばれている位牌がある。わたくしたちのいま葬儀しつつある父と、その先代との間に家系も絶えんとし、家運も傾きかけた間一髪の際に、族中より選み出されて危きを既倒に廻し止めた女丈夫だという。わたくしの名のかの子は、この女丈夫を記念する為めにつけたのだという。しかも何と、その女丈夫を記念するには、相応わしからぬわたくしの性格の非女丈夫的なことよ。わたくしは物心づいてからこの位牌をみると、いつもこの名を愛しその人を尊敬しつつも、わたくし自らを苦笑しなければならなかった。
読経は進んで行った。会葬者は、座敷にも椽にも並み余り、本堂の周囲の土に立っている。わたくしは会葬者中の親族席を見廻す。そしてわたくしは茲にも表現されずして鬱屈している一族の家霊を実物証明によって見出すのであった。