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あめあがる
雨あがる
山本 周五郎
「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页
そしていそいでそこを去った。
釣り竿も魚籠も元の処にあった。もう釣りをする気にもなれないので、それらを拾いあげると、がっかりしたような気持で帰途についた。
「はたし合いだなんて、危ないことをするものだ」
歩きながら彼は呟いた。
「親兄弟、妻子のいる者もあるだろうに、つまらない意地とか、武士の面目とかいうことでしょう、……しかし失敗だったですなあ、頭の上へ刀を五本、両手でさし上げて、あやまりながら逃げまわったというのは、われながらあさましい、しかもそれを見られたのだから、うっ」
伊兵衛は首を縮めて呻いた。
宿へ帰ったが、する事がなかった。あきない用の玩具も余るほど作ってあるし、もっと作るにしても材料を買う銭が(宿賃があるので)心配だった。深酒をした翌日で、しきりに飲みたい誘惑もある、しようがないので、朝昼兼帯の食事をして寝てしまった。
眠りのなかで彼はすばらしい夢をみた。どこかの藩主が家来を大勢伴れて来て、ぜひとも召抱えたいというのである。
――また気まずいことになりますから。
と彼は辞退した。藩主はぜひぜひと譲らず、食禄は千石だすと云った。千石となると話はべつである。