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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

七

七

伊兵衛は午後おそく、日の傾く頃に帰って来た。

首尾は上々だったのだろう、こみあげてくる嬉しさを懸命に抑えているが、抑えても抑えてもこみあげてくるので、われながら始末に困るといったふうな、不安定な渋い顔をしていた。

「帰りに青山さんへ寄ったものだから」

彼はこう云って、大きな包をそこへ置いた。

「――祝いにどうしても一盞ということで、もちろん今日は辞退したけれども、寄らないのも失礼ですからねえ、これは殿様からの引出物です」

家紋を打った紙に包まれた包が二つ、おたよはどきっとしたようすであるが、すぐ平静にかえって、そっと押戴いて隅へ片づけた。

「今日はひとつ、飲ませて下さい」

伊兵衛は裃を脱ぎながら云った。

「はいかしこまりました」

おたよもその返辞だけは明るかった。

大体としてこういう安宿には風呂はない。彼は十町ばかり西の宿にある銭湯へいって来て、それからつつましい酒の膳に向った。おたよは給仕をしながら、同宿者の誰それと誰それが出立したこと、誰それと誰それは明日立つこと、出立した人々の伝言や、お互いに泣き合ったことなどを、しみじみとした口ぶりで、珍しく多弁に語った。