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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

池田のあたりから右へ切れて、小高い丘に出たところで、さっさとその辺の石に腰をおかけになります。「まあそなたも坐れ。ここからは京の焼跡がよう見えるぞ」とのお言葉に、わたくしも有合う石に腰をおろしました。

わたくしは更めて一望の焼野原をつくづくと眺めました。本式の戦さが始まってより、まだ半年にもならぬ間に、まったくよくも焼けたものでございます。ちょうど真向いに見えております辺りには、内裏、室町殿、それに相国寺の塔が一基のこっておりますだけ、その余は上京下京おしなべて、そこここに黒々と民家の塊りがちらほらしておりますばかり、甍を上げる大屋高楼は一つとして見当りません。眺めておりますうちに、くさぐさの思いが胸に迫り、覚えずほろほろと涙があふれそうになって参ります。松王様も押黙られたまま、姫の御消息を打ち返し打ち返し読んでおられます。沈黙のうちに小半時もたちましたでしょうか。……

と、松王様はゆきなりお文を一くるみに荒々しく押し揉まれて、そのまま懐ふかく押し込まれると、つとこちらを振り向かれて、「どうだ、よう焼けおったなあ。相国も焼けた、桃花文庫も滅んだ、姫もさらいそこねた、はははは」