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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

暫く二人の間に話がとだえた。「あの早川さんがなくなって……一寸困った事に、あの人の生きておられた一番最後にお会いなすったのが、あなただというのですがその時の事をお話し願えないでしょうか?」

暫くして警部はこう聞いた。

「あの書庫で、なくなられましたそうで。夜中だったそうですが、私はなにしろそれから二時間前に失礼さして頂きましたので……あの人は例の通り、気むずかしい皮肉を言ったりしてみなさんを困らしておられました。私などにも、けんもほろろの挨拶でした」

「あなたの書庫に入られたのは何時ごろでしょうか?」

「いつごろと言いますと?」

「あなたが御気分が悪いとおっしゃって便所へおいでになった前でしたでしょうか、それともその後」

「その少し前です」と彼はけげんな顔をして答えた。

「そうですかその時、あのテーブルの上に文庫が出て居たのですが、あなたは御存知でしたか?」

「さて……」と山村は考えるように暫くランプのしんを見つめていたが「さあ……そう言われると……いやなかったのではありませんか?」

と、チラと警部の顔に視線をもどしながら「文庫がどうかなさいましたか?」と聞いた。