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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
「実はその文庫が一寸問題になりましてね」
「え! 文庫が! どんな?」
「何あにあの中からなくなったものがありましてね」
「え! なくなった物! と言いますと」
山村の茶わん持つ手が幽かにふるえた。
「証書ですよ。貸借の」
「そうですか」と言った彼は、又静かな前に返って新しいお茶を入れかえてくれた。その茶をすすり終ると警部は、
「いや長い事おじゃま致しまして色々とありがとう存じました」と言って立ちあがった。彼は長い影法師を引いて送って出た。
署に帰った田名網警部は、人々の訊問から得た事の総てを例のように、紙に箇条書きにしながら、一つ一つ分類し解剖して行った。その表には五十からの項目が書かれてあった。
事実、疑問、嫌疑、指紋を分け更に個人別にし、そして動機、行動、情況、証言、性行など、それは一つの心理学の表に似ていた。一見しただけでは他人にはてんで判りはしないが、警部にはその仕事は楽しかった。そしてそれによって追い出しをして行けば残るもの、それは犯人のすがたのアウトラインだったからだった。
警部はその表を幾度も読み直しながら小さな字で数字を、略図を幾回か書き足して行った、そして探究して見た――と、一つの事に警部は行きあたった。