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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
はなかった。
「どうでした、ほしが少しはついた?」
そう言って久保田検事が入って来た。
「いや」と警部は物うさそうに頭をふりながら検事の出したケースに手を出して一本抜きながら、
「今の所誰も彼も動機もあり機会もあったんですが、物的証拠というものは一つもないのですよ。そりゃあ無理に数えあげれば引っぱる理由もつきますが、それが皆んな情況証拠ばかりで……兇行と同時にランプを消した、というのも、見方によってはひどくち密な様でもあり、又ひどく大胆ないや、むしろ投げやりな所があるのです」と言いながら、体を起して淋しそうに検事の眼をのぞき込みながら「ね久保田さん、寒い所には――雪のふる夜には雪女って妖怪が出るそうですね。この殺人もそんな奴等の仕業かも知れませんよ」
検事は警部を見ていたが、だまって立ってそして出て行った。警部は半ばうつろな目でそれを見送っていたが、やがて目をつむると思索の中に落ち込んで行った。
灰が火の消えた煙草から、ぼとりと警部の膝の上に落ちた。
二十分。三十分。そして一時間。
警部の顔には苦悶の色がだんだん濃くなって行った。
一時間半ばかりして、ぽっかりと目を開いた警部はポケットからスコッチの銀製の入物を出して、蓋にしている小さなカップで二つ三つ続けさまに飲んだ。