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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

私にしろ、若尾君にしろ、法医学的な解剖なんてものは、長い事やった事はなく、そうした誤謬はないとはいい切れませんよ」

広瀬医師は、屈託なしに、素直にそれを認めた。

「では、なぜ先生方はそんな大きな誤謬をなさったのであろうか? それは午前二時迄ランプが、ついていたという、先入主が、無意識に働いていたのではないでしょうか?……で惨劇が十二時前後とすると、私の表の中で残ったもの、それは山村でした。山村は十二時一寸前に、早川と会っています。そしてそれが、被害者の生きている所を見た者の最初です。山村はひどく青い顔をして、カワヤから帰って来たと皆は証言しています。本人にいわせると、悪酔いしてもどしたからだと、いっていますがいくら僧侶でも一人、然かも知人を殺めたのでは、常態ではいられなかったと思います。

彼は帰りぎわに、玄関に出ながら、一寸書庫の方に、もどりかけたといわれていますね。それも、私から解決すれば、山村の芝居……悪るくいえば、彼の悪らつなこまかな技巧ですよ。でなければ自分の細工したあの書庫のドア……ドアの事は、後で説明いたしましょう……の状態をたしかめたかったからではないだろうか? 僕はそう解釈しているのです。