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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
では、動機は?
……それは一つの本、それと怨です。私は山村を訪問して、先代からのという、古い蔵書の目録を見せてもらいました。大部分は金のかたに、早川の所有になっていますが、あの中には宋版の仏典のような、貴重なものもありましたが、それよりも私はたいした物を、その中で見て終いました。それは墨で消されてはありましたが大和の国の“極楽寺縁起”の一巻です。それは後醍ご帝の御しん筆の御歌があり、詞は花山院大納言師賢です。
そして絵は土佐光行です。私はこれを五十嵐に就いてたしかめました。彼もこれがあったので樺太まで来たのだといっています。
日本には唯一つしか残っていない、馬越翁の所蔵の残欠の一巻なのです。国宝以上のものなのです。この一巻が、この殺人事件の、直接動機なのです。ここに早川の作った目録があります。高沢寺本と書いた所には、この巻物の名はありませんが、ここの欄外に、書名だけ『極楽寺縁起』とあるので、私はこれも早川の所にあったが、これは正式に早川の所有には、なっていなかったものだと断定しました。買ったものではなく、預るか借りるかしてあったのだが、山村の先代が死んで、それなりになっていたのでしょう、勿論山村は再三、その返還を迫ったのでしょうが、早川は返さなかった。