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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

焼け跡には恨めしげに立っている人達もかれこれ見えるが、さて小林君の家族はおらぬ。小日向台町の同君の親戚を尋ねてみると、未亡人は三越から徒歩でかなたこなたと火先を避けつつ帰られたが、学校へ出たままの子息の行衛が不明なので、心配して四谷へ縁付いた姉さんの所へ尋ねて行かれたという。無事に避難していてくれればよいが。

転じて久堅町の甥の宅を訪うてみる。なるほど家屋に被害は少く、伝通院附近まで焼けているとの噂も真赤な嘘らしく、さしあたり類焼の虞れがありそうにもない。しかし今朝出たままの甥は、夜になってもまだ帰っておらぬ。甥は日本橋の富士紡会社に勤めているのだ。そしてそのあたりはとくに焼けてしまっているはずだ。間違いがあったのではないかと気にかかるが、今のところ何とも致し方がない。

伝通院前に西川〔(龍治)〕君の宅を訪うてみた。この方面の火事の噂は果して嘘で、造兵の火ももう焼くだけは焼いてほぼ鎮まっているらしい。そして留守だと聞いた同君は夫人とともに椅子を並べて、門前に避難しておられる。鎌倉から用事があってちょっと帰ったところがこの騒ぎだという。鎌倉のことが気にかかるが、汽車が不通で行くことは出来ず、電話も電信も通ぜねば、いっさい様子がわからぬと言われる。