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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

●地震よりも恐ろしい火事

ただ一つ古土蔵のみは飛んだ厄介物だった。その馬鹿に厚い壁や屋根が遠慮なく壊れ落ちたがために、それを囲んで造った座敷や物置に飛んでもない損害を及ぼした。箪笥は倒れる、棚の物は投げ出される。内部の四壁に沿うて所狭きまで積み重ねた品々は、それこそ玩具箱を打ちあけたようにメチャメチャに蒔き散らされている。

怪我人が俥で隣の天龍堂医院へかけつけた。しかし薬局も診察室もメチャメチャで、器械や薬品が散乱して足踏みもならぬらしい。そのうえしばしば酷い揺り返しが来るので屋内に入ることが出来ぬ。やむなく路傍で応急の手当をして返したらしかった。

●地震よりも恐ろしい火事

屋上に設けた涼み台兼物干場へ上って見る。かなたこなたにはやくも煙が揚がっている。なかなか十ヵ所や二十ヵ所ではないらしい。地震につきものの火事なのだ。消防の自動車がけたたましく走っている。しかし今日の消防法では唯一のたよりなるべき水道は疾くに止まっているのだ。どうなることであろう。西の方のは早稲田方面だ。南に近く見えるのは桜木町だという。桜木町には故小林〔(庄次郎)〕文学士の遺族がいる。小林君は自分の郷里の出身で、久しく自分ら仲間の経営の日本歴史地理学会の幹事として、会務に尽力してくれた人だった。