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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

●見たものでなければ想像の出来ぬ惨状

観音堂前に近ごろ出来た名物燈籠は、一つ残らず完全に倒れている。墓地の墓標が倒れたり、居去ったりしているのは言うまでもない。中に丸井圭次郎君の家族の墓もある。同君今は遠く台湾総督府に奉職しておられるが、かつて自分の後を承けてこの護国寺境内なる今の豊山中学校を物にした人だ。その在職中夫人と二子とを同時に失われて、その三人の霊がここに宿っているのだ。墓標は古式の五輪塔で、それも御多分に漏れず崩れていたが、手ごろの大きさのものであったから、次男と共力して積み直しておいた。

墓地を通り抜けて、雑司ヶ谷の方へ出ようとすると、例の棍棒を持って自警団の人々が、いま怪しい者がここへ逃げ込んだと探しに来た。やがてかなたの茂みの中から呼子の音が聞こえる。たちまち二、三十人の棍棒連がどこからともなく集まって、一人の若者を取り囲んで推問する。何でもその若者はその茂みの中に疲れて寝ていたのを見付けられたのだという。しかしそれは怪しい者でも何でもなく、つい近所の人で、群集の中に見知ったものがあり、無事放免せられた。疑心暗鬼の今日だ。まだまだ通行には気をつけねばならぬ。

●見たものでなければ想像の出来ぬ惨状