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しんさいにっし

震災日誌

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第三号」1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,617 字 · 40 页

青空文庫

九月六日(木)震災第六日。だんだん落ち付いて来たので、親戚の見舞かたがた自転車で震災の跡の視察にまわる。まず大塚線の電車道を本郷に出て、湯島天神の境内から眺望すると、湯島の台地一帯はもとより、南から西へかけて下谷・浅草・神田・日本橋・京橋、さては川向うの本所・深川まで、見渡すかぎり赭色の焼野の原で、不燃質の残骸のほかには目を遮るものほとんどなく、ただその中に焼け残った浅草寺の境内のみが、平素想像していたよりもよほど近く青々と見える。

引き返して湯島から焼け跡を神田明神前に出る。災後六日の今日になってまだ所々に余焔の立っている所がある。あの湯島の大きな霊雲院も焼けた。境内の和田英松博士のお宅の跡も、今ではどこと見当がつかぬ。沢山の蔵書とともにすべて灰になってしまったのであろう。聖堂も焼けた。昌平校の跡形もなくなった。須田町から柳原を両国橋へ出て電車道を東へ、何一つない焼け跡を往来の人が隙き間もなく続いている。それが焼け落ちた江東橋で遮られて、仮橋を一列に渡らねばならぬ。順番を待つのが容易でないので、大横川筋を北へ、わずかに残った二つ目の橋を東へ、天神橋を越えて亀井戸町に出て、始めて焼け残った町家を見ることが出来た。