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きりのばんしゃ
霧の蕃社
中村 地平
「文学界」1939(昭和14)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页
この二百五十名は二隊にわかれ、東能高郡下の主な駐在所の殆んど全部――新高、尾上、トンバラ、ボアルン、ロードフ、ターウツア、サクラなどの駐在所をかたはしから襲撃して行った。すべての駐在所には一人乃至二三人の駐在員とその家族たちが住まっている。それらはすべて兇蕃の犠牲になった。前夜から霧社に泊りがけで出かけた女子供のほんの一部だけが、僅かに災厄から免れた。しかし、それらの大半も結局のち霧社公学校で不幸な襲撃に遭っているから、災厄から免れた、といっても、それは時間の問題にすぎないのではあるが……。
兇蕃たちの行動は全く早く、静かであった。広い、暗い地域を二ツの魔風のように吹きぬけて、人命のいくつかをもぎ落し、次第に新しい仲間で身ぶくれして行ったかと思うと、空が白んだ頃には忽ちホウゴウ社に引き返していた。午前七時ホウゴウ社で再び合流して一隊となった彼らは、その足で頭目タダオノウカンを訪れた。タダオノウカンはその土地の長老であり、勢力家である。モーナルーダオは礼を尽して長老が一行の挙に加わってくれるように頼んだ。タダオノウカンはそれを聞くと彼らの暴挙をとめようとして、必死になってさとした。