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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

彼はよろめく脚をふみしめ、全身の力でもって低く、モーナルーダオの襲撃を支えた。暗い星月夜の空の下で、しばらく二人は組んず、ほぐれつして争っていたが、間もなく、二人の体は組みあったまま叢の坂径をころがり落ちた。そこは既に杉浦巡査の官舎からは十五六丁もはなれており、丁度、すぐ傍らにはモーナルーダオの家が在った。巡査が頭目の下敷きになった時であった。家のなかからはルーダオの次男タダオモウナオが走り出た。蕃刀でタダオは巡査の頭をはねた。不幸な内地人犠牲者の最初の一人はこうして産れた。

間もなくモーナルーダオの家の前には黒い人の影が忍び寄るように一つ二つと集ってきた。マヘボ社の若い男たちである。社内の若い男全部約五六十が約束に従って出揃うと、それらは頭目モーナルーダオに引率されて、暗い山坂径を静かにタロワン社へむかって行った。タロワン社の部落の外れまで来ると、そこにはその社の壮丁たちがひとかたまりになってまっていた。マヘボ社と、タロワン社との壮丁は合流し、一隊になってボアルン社へと行った。約束どおりボアルン社の壮丁たちもただちに一行に合流した。隊の人数は忽ち二百五十名ばかりに増えた。