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きりのばんしゃ

霧の蕃社

中村 地平

「文学界」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,389 字 · 57 页

青空文庫

永い闘いに憔悴しきった顔にいっそうの苦悩の色をみせながらルーダオは径々つぶやいていた。耕作小舎に辿りつくと、ルーダオは妻と十四になる娘とだけを伴って中に入った。つづいて小舎に火をはなち、二人の屍体を焼いた。

小舎が燃えきってしまうと、ルーダオは他の十四名に最後の訣別を述べた。

「お前たちも自分ことは覚悟の通り始末をつけて貰いたい。俺はここを去って、蕃人も、内地人も、本島人も知らないところへ行って死ぬ」

飄然と去ってゆく頭目の後ろ姿を一族の誰もが言葉もなく見送っていたが、それが山蔭に消えさってしまった時、一同は言いあわしたように傍らに縊死の支度にとりかかった。

頭目モーナルーダオはその後杳として行方がわからなかったが、事件が終ったのち、ようやく三年目、その屍体はミイラになって付近の山林のなかに見出された。

ルーダオの次男タダオモウナオは、岩窟が陥落したのちも、常に手兵少数をひきいて警備線に出没し、討伐隊を悩ましつづけていた。忽ち現れたかと思うと忽ち消え、どうしても捕えることができないのである。同じい状態は十一月いっぱいつづいた。

しかし、これより先討伐隊では彼の妹ホンモウナオを逮捕することができた。