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あおくさ
青草
十一谷 義三郎
「文芸時代」1924(大正13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,645 字 · 14 页
ある晩、村の社の祭礼で、兄を真中に、歌津子と弟とが両側に並んでお参りをした。帰りは、紙鉄砲や折紙細工の批評や、焔の上に手を翳して平気でいた魔術師の噂さなどで、彼らはそれぞれ興奮していた。
人通りの少いところへ来ると、兄は先きにたってピイピイと口笛を鳴らした。弟は大声で軍歌を唄った。歌津子は空を仰いだり彼らの歌に耳をすまして微笑んだり、今買った京人形を愛しんだりして歩いていた。
しばらくゆくと、彼女がふいと兄のからだに抱きついて彼を引き戻した。闇がりから大きな馬の顔が現れた。
「ちっとも見えないんだ。」と兄が言った。彼女はしっかりと兄の手を握って息を喘ませた。
それを見ると弟はきゅうに口を緘んで、彼女を放っておいてどんどん先へいった。弟の胸の中に不満と淋しさが膨れ上っていたのだ。
その夜、床にはいってから、弟は夜着の中でいつまでも眼をっていた。そして彼は、隣りに眠っている兄の穏かな寝息きを聞くと、こっそり起き上って、枕もとの兄の黒眼鏡を持って縁側に出た。そして、廁の側の雨戸を開けて、星の輝いてる空に向って、力限り抛り上げた。それから床に戻って、いつか教会で聞いた神様の名を幾度も口の中で繰り返えした。