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ふうりゅうばけものやしき

風流化物屋敷

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页

青空文庫

……体閏院さまは末年の頃というから享保年代のことだろう。この繁華な広島城下のしかも武家町の中に一軒の化物屋敷があった。城の東に縮景園という藩侯の泉邸がある、場所はその近くで、武家町としては端れのほうだったが、もう七八年というもの空家になっていた。ひと頃は望んで住む者もあり、中には「ひとつ己れが退治てやろう」などと押しかける手合もあった。けれどもよくってひと晩、いくじの無いのは夜なかまで保たない、例外なしに蒼くなって逃げだすと、それっきり口を拭って寄りつかないのであった。元禄享保といわれるくらい四民は鼓腹して泰平に酔っていた時代である。武士の気風も弛廃堕落していたんだろう、などといきまくには及ばない、いつどこにでも岩見重太郎や宮本武蔵がいる訳ではなく、武士だって大抵は人間なみの神経を持っていたし、「怪力乱神を語らず」といって、むしろ化物いじりなどは軽忽とされたくらいである。

その家は自体もう古くてかなり荒れていた。元は五六百石の侍が住んだものだろう。部屋数も多いし厩もある。庭も五百坪ばかりの広さだが、樹という樹は遠慮もなく枝をひろげ、それへ藪枯しだの刺草だのがむやみに絡み繁って、さながら欝蒼たる密林の観を呈している。