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めしまつま

飯待つ間

正岡 子規

正岡子規『飯待つ間』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飯待つ間、犬、画、句合の月、九月十四日の朝、くだもの、ランプの影、熊手と提灯、徒歩旅行を読む、病牀苦語、車上の春光、煩悶、初夢、夢、病、墓、酒、権助の恋、恋。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,525 字 · 126 页

青空文庫

車上の春光

四月廿九日の空は青々と晴れ渡って、自分のような病人は寝て居る足のさきに微寒を感ずるほどであった。格堂が来て左千夫の話をしたので、ふと思いついて左千夫を訪おうと決心した。左千夫の家は本所の茅場町にあるので牡丹の頃には是非来いといわれて居たから今日不意に出て驚かしてやるつもりなのだ。格堂はさきへ往て左千夫の外出を止める役になった。

昼餉を食うて出よとすると偶然秀真が来たから、これをもそそのかして、車を並べて出た。自分はわざと二人乗の車にひとり横に乗った。

今年になって始めての外出だから嬉しくてたまらない。右左をきょろきょろ見まわして、見えるほどのものは一々見逃すまいという覚悟である。しかしそれがためにかえって何も彼も見るあとから忘れてしまう。

暗い丈夫そうな門に「質屋」と書いてある。これは昔からいやな感じがする処だ。

竹垣の内に若木の梅があってそれに豆のような実が沢山なって居るのが車の上から見える。それが嬉しくてたまらぬ。

狸横町の海棠は最う大抵散って居た。色の褪せたきたない花が少しばかり葉陰に見える。

仲道の庭桜はもし咲いて居るかも知れぬと期して居たが何処にもそんな花は見えぬ。