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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

そして一緒に酒を飲み食事をしながら、私と妻とはごく穏かな言葉で、そういう場合に誰でも普通に云いそうなことを――故郷の人達に心配さしてはいけないとか、余り物を買うものではないとか、若い女との交際は初め何でもないつもりでも危険が伴い易いとか、そんな風なことをぽつりぽつり云ったのです。それを彼はただにこにこして心安そうに聞いていました。それから食事の終り頃になって、彼はふいに云い出しました。

「一週間ばかり、一寸国へ帰って来ようかとも思いますが……。」

「え……そうだね、帰ってお母さんを安心さしてあげるのもいいだろうが、然し……、」と私は少し気の毒になって云いました、「それにも及ぶまいよ、僕からいいように云ってやっとくから。」

「いいえ、そんなことじゃないんですが……。」

云いかけて彼は口を噤んでしまいました。

それから、食事がすむと、彼はすぐに子供達の方へいって、羽子をつこうと云い出しました。子供達は大喜びです。母親にせがんで、玩具箱の底から古い羽子板と羽子とを出して貰って、皆で向うの座敷に馳けてゆきました。そして可なり長い間、子供達の笑い声に交って、かちん……かちん……という羽子の音が続きました。